熟年離婚を徹底解説

熟年離婚は、これまでの生活がガラリと変わる人生の大きな転機です。お金、手続き、心の準備、どれも不安がつきまといます。ここでは、財産分与や年金分割などのお金のこと、離婚の手続、準備について説明します。

1 熟年離婚とは

「熟年離婚」とは、一般的に婚姻期間が長く、夫婦の一方または双方が50歳以上になってからする離婚を指します。明確な法的な定義はありませんが、厚生労働省の統計では、「同居期間20年以上」の離婚を熟年離婚と捉えています。

⑴ 件数の増加

近年、日本では熟年離婚の件数が増加傾向にあります。決して他人ごとではありません。

⑵ どうして熟年離婚するのか

熟年離婚する理由としては、性格の不一致など長年の不満の蓄積の他、子育てを終了し夫婦間の会話が減少することや定年退職による環境の変化(共に過ごす時間の増加等)などが挙げられます。

2 熟年離婚の際、決めておくべきお金のこと

熟年離婚は、長年築き上げてきた夫婦関係を解消するだけでなく、その後の生活を支える経済基盤を大きく変えることになります。離婚後の生活で経済的な不安を抱えないためにも、しっかりとした知識が必要です。

⑴ 財産分与

ア 財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた財産を、離婚時に公平に分配する制度です。名義がどちらか一方の配偶者になっていても、実質的に夫婦の協力によって形成された財産であれば、原則として分与の対象となります。熟年離婚の場合、婚姻期間が長く、蓄積された財産も多数にわたるケースが多いため、正確に財産を把握し、財産を適切に評価する必要があります。

イ 財産分与の対象となるのは、預貯金、不動産、自動車、有価証券、生命保険の解約返戻金、退職金、企業年金など、婚姻期間中に形成された共有財産です。一方、結婚前から所有していた財産や、親からの相続・贈与によって得た財産は「特有財産」と呼ばれ、財産分与の対象外となります。ただし、一見「特有財産」に思える財産でも共有財産と混在している場合には、財産分与の対象となる共有財産となります。

ウ 分与の割合は、原則として2分の1です。例外的に、夫婦の一方が特別な才能や努力によって多大な財産を築いたなど、特別な事情がある場合には、割合が修正されることもあります。

エ 不動産の分け方
不動産は、熟年夫婦にとって最も大きな共有財産の一つです。売却して代金を分けるか、一方が取得し、代償金を支払う方法で分けることとなります。

オ 預貯金の分け方
預貯金については、離婚時(別居が先行する場合には別居時)の口座残高が分与の対象となります。夫婦それぞれの名義の口座はもちろん、いわゆる「へそくり」も共有財産とみなされる可能性があります。ただし、相手方の預貯金を正確に把握する必要があるため、相手方が所持している銀行名等は把握しておく必要があります。

カ その他の財産の分け方
その他、自動車、有価証券(株式、投資信託など)、生命保険の解約返戻金、ゴルフ会員権、家財道具なども財産分与の対象となり得ます。これらの財産についても、評価額を算定し、公平な分与を目指します。

⑶ 退職金・企業年金の扱い(財産分与)

熟年離婚において、退職金や企業年金は、高額になりうる財産であり、将来の生活を左右する重要な財産分与の対象となります。これらは、現在受け取っていなくとも、婚姻期間中に形成された部分については共有財産となります。

退職金:退職金は、婚姻期間に対応する部分が財産分与の対象となります。まだ支給されていない場合でも、退職金規程が存在し、将来の支給が確実であると見込まれる場合は、その見込み額に基づいて分与の対象とされることがあります。

企業年金:確定給付企業年金や確定拠出年金(iDeCoを含む)も、婚姻期間中の積立分が財産分与の対象となります。年金分割制度とは異なり、こちらは財産分与の一部として扱われます。企業年金の種類によって、情報開示請求の方法や分与の計算方法が異なるため、加入している企業年金制度の内容を確認する必要があります。

⑷ 年金分割

年金分割制度は、年金の受給に関して、特に経済的に不利になりがちな配偶者を保護するための重要な制度です。この制度は、婚姻期間中に夫婦が納付した厚生年金保険料の記録(標準報酬月額・標準賞与額)を、離婚時に夫婦間で分割し、それぞれの年金額を調整するものです。国民年金(基礎年金)は分割の対象外です。
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があります。年金分割は、離婚後2年以内に手続きを行う必要があります。手続きは、年金事務所で行い、必要書類を提出します。自身の年金記録や分割の見込み額については、事前に年金事務所で情報提供を求めることができます。
離婚時に取り決めを行わないと手続きを行うことができないことがありますので、注意が必要です。

⑸ 慰謝料請求の条件と相場

慰謝料とは、離婚の原因を作った有責配偶者に対して、精神的苦痛に対する損害賠償を請求するものです。熟年離婚においても、相手の有責行為によって精神的な苦痛を受けた場合、慰謝料を請求することができます。
主として、不貞行為やDVなどがあった場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。反対に、性格の不一致などの場合には、原則として慰謝料を請求することは困難です。
慰謝料請求には、相手の有責行為を証明する証拠が不可欠です。不貞行為であれば写真、メール、SNSのやり取りなど、DVであれば診断書、録音、日記などが有効な証拠となります。
慰謝料の金額は、事案の悪質性、婚姻期間、精神的苦痛の程度、有責配偶者の経済状況などによって、決められます。慰謝料の請求を検討する場合は、早めに弁護士に相談し、自身のケースにおける請求の可否や必要な証拠、相場についてアドバイスを受けることをお勧めします。

⑹ 離婚後の生活設計

熟年離婚後の生活は、現役世代の離婚と比べて、収入源の確保や住居の安定がより困難になる傾向があります。離婚後の生活で経済的に困窮しないためには、具体的な生活設計を立てることが重要です。
離婚後、居住する家があるのか(実家を頼れるのか、賃貸物件・公営住宅を借りることができるのか)等、きちんと検討する必要があります。
また、今後の生活費の確保、自身の収入や年金の支給額、財産分与で得ることのできる金銭についてきちんと検討する必要があります。

3 熟年離婚の手続

熟年離婚は、長年連れ添った夫婦が新たな道を歩むための重要な決断です。ここでは、具体的な手続きを解説します。

⑴ 離婚の種類と選択肢

離婚には主に協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つの種類があります。主に相手方との話し合いの状況により、どの手続きを選択するかを検討します。

⑵ 協議離婚

協議離婚は、夫婦間の話し合いによって離婚の合意に至り、離婚届を提出することで成立する最も一般的な離婚方法です。夫婦双方の合意があれば、裁判所を介さずに手続きを進められるため、時間や費用を抑えられます。
しかし、前提として、双方の合意が必要です。相手方が離婚を拒否しているのにいくら話し合いを続けても離婚の成立まで時間を浪費するだけです。
また、口約束だけでは後々のトラブルに繋がりやすいため、財産分与、年金分割、慰謝料、子どもの親権・養育費・面会交流など、取り決めるべき事項を記した「離婚協議書」を作成することが重要です。さらに、この離婚協議書を公証役場で「公正証書」として作成することで、法的な強制力を持たせることができ、万が一の不履行に備えることができます。

⑶ 調停離婚

夫婦間の話し合い(協議)だけでは合意に至らない場合や、相手が話し合いに応じない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停離婚は、裁判官と男女1名ずつの調停委員が夫婦の間に入り、中立的な立場で話し合いを促し、合意形成をサポートする手続きです。
調停では、夫婦が直接顔を合わせることなく、別々に調停委員と話し合う形式が一般的であるため、感情的な対立を避けやすいというメリットがあります。調停で合意が成立すると、その内容を記した「調停調書」が作成され、これは判決と同じ効力を持つため、法的拘束力のある解決が期待できます。
ただし、調停も話し合いの一種であり、双方の合意がない限りは離婚は成立しません。
手続上、裁判離婚の前には離婚調停を行う必要があります。

⑷ 裁判離婚

調停でも合意に至らなかった場合や、相手が調停に応じない場合には、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、裁判によって離婚を成立させることになります。裁判離婚で離婚が認められるのは、法律で定められた離婚原因(法定離婚事由)がある場合にのみです。
法定離婚事由には、以下のものが挙げられます。
・配偶者に不貞行為があったとき
・配偶者から悪意で遺棄されたとき
・配偶者の生死が3年以上不明であるとき
・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
・その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
裁判では、これらの離婚原因の有無や、財産分与、慰謝料などの具体的な内容について、証拠に基づいて判断が下されます。弁護士に依頼することが不可欠であり、時間も費用も最もかかる手続きとなりますが、最終的な法的解決を得られる手段です。

⑸ 離婚後の氏名・戸籍・保険・年金の手続き

離婚が成立した後も、新しい生活をスムーズに始めるためには、氏名や戸籍、そして社会保険や年金に関する手続きを適切に行う必要があります。これらの手続きは、期限が設けられているものもあるため、速やかに対応することが重要です。
ア 氏名
離婚すると、原則として婚姻前の旧姓に戻ります。しかし、離婚後も婚姻中の姓を使い続けたい場合は、離婚届と同時に「離婚の際に称していた氏を称する届」(戸籍法77条の2の届)を市区町村役場に提出するか、離婚後3ヶ月以内に別途届け出ることで、婚姻中の姓を継続して使用することができます。この届出をしないまま3ヶ月を過ぎると、家庭裁判所の許可が必要となるため注意が必要です。

イ 戸籍
離婚すると、夫婦の一方は戸籍の筆頭者ではなくなります。筆頭者でない側は、原則として婚姻前の親の戸籍に戻るか、自分を筆頭者とする新しい戸籍を作るかを選択します。筆頭者だった側は、自分を筆頭者とする新しい戸籍が自動的に作られます。
子どもがいる場合、子どもの戸籍は原則として親権者でない親の戸籍に残ったままになります。親権者である親と同じ戸籍に入れたい場合は、家庭裁判所の許可を得て「入籍届」を提出する必要があります。

ウ 保険
配偶者の扶養に入っていた場合、離婚後はその扶養から外れることになります。ご自身が会社員や公務員であれば勤務先の健康保険に加入し、そうでない場合は国民健康保険に加入するか、条件を満たせば元の親の扶養に入ることも可能です。国民健康保険への加入は、住所地の市区町村役場で手続きが必要です。

エ 年金分割
熟年離婚において特に重要なのが年金分割制度です。これは、婚姻期間中の厚生年金(共済年金を含む)の保険料納付記録を夫婦間で分割し、それぞれの年金額に反映させる制度です。合意分割(夫婦の合意または裁判所の決定による)と、第3号被保険者期間を対象とする3号分割(相手の合意なしで請求可能)の2種類があります。年金分割の手続きは、離婚後2年以内に行う必要があります。年金事務所で情報提供請求を行い、具体的な手続きを進めましょう。

5 熟年離婚で失敗しないための注意点と成功の秘訣

⑴ 準備の重要性

熟年離婚は、人生の後半における大きな転換点です。そのため、十分な準備を行うことが、熟年離婚を失敗させないために重要です。
この準備期間は、数ヶ月から数年かかることも珍しくありません。この期間に、経済面、精神面、手続き面での準備を計画的に進めることが成功の鍵となります。

⑵ 経済的な準備

離婚後の生活費を具体的に見積もり、財産分与や年金分割の見込み額を把握し、自身の収入源を確保するための具体的な行動を開始します。財産分与など、相手方から受領する金銭は、相手方の態度によっては、すぐに手元に確保できるわけではありません。その点を見越して、準備する必要があります。
そのために、次の情報を収集しておく必要があります。
・財産分与の対象となる資産(不動産、預貯金、有価証券、退職金、企業年金など)とその評価方法、共有財産の範囲。
・年金分割制度の詳細と、自身の年金受給見込み額への影響。
・慰謝料請求の条件と一般的な相場。
・新しい住居の確保方法(賃貸、購入、公営住宅など)と、それに伴う費用(家賃、敷金、礼金、ローン返済額など)。
・月々の生活費の内訳(食費、光熱費、通信費、医療費、保険料、交通費、趣味・娯楽費など)。
・利用可能な公的支援制度(住居確保給付金、自立支援医療、生活保護、各種手当など)の受給条件と申請方法。

⑶ 法的な準備

離婚の種類(協議離婚、調停離婚、裁判離婚)を理解し、それぞれの手続きに必要な書類や流れを確認します。必要に応じて弁護士などの専門家への相談もこの期間に行います。

6 まとめ

熟年離婚は、人生の大きな転機であり、後悔のない新しい人生を歩むためには徹底した準備が不可欠です。準備段階においても、弁護士への相談を強くお勧めします。